1043日目
私は今をときめく女子大生だ。
朝から早起きするとまず最初にやるのは浮腫取りの着圧ソックスを脱ぐこと。朝食は健康的なグリーンスムージー。顔を洗った後は丁寧に髪をセットし、顔に化粧を施して、手足や首に日焼け止めを塗ることも忘れない。服は寝る前に選んでハンガーに掛けていたものを着るだけだから時間はかからない。時々その日の気分によって変えちゃうことはあるけど。準備が終わったら、姿見の前でくるりと一回転して最終チェック。
美を保つのは大変なのだ。美容院で月に一度カットとカラーとトリートメントをしてもらうだけで、あっと言う間にお金が飛んでいく。私は何もせずに綺麗なわけじゃないのに、そこのところ理解していないやつらが多すぎて困る。顔やせ効果のある舌回し体操やスクワットみたいな、人にはとてもじゃないが見せたくないことを陰ながらして、水面に浮かぶ白鳥のように日々必死に足掻いているのだ。そうやって四年間しかない「女子大生」というステータスの強みを最大限生かす努力をしているからこそ、”社会福祉学科の美人なあの子”で通ることが出来ている。
あ、今はそんなこと問題じゃなかった。
必死こいて受験勉強をして合格者に滑り込み、私は二ヶ月前に現役女子大生という称号を手に入れた。気分は魔王を倒した勇者だ。代わりに女子高生の称号とセーラー服という称号服を捨てなければいけなかったけど、人生最後のモラトリアム期間を過ごせるのなら背に腹は代えられない。新歓期を終え、男女比半々のゆるそうなサークルには入ったけど、ゆるすぎて活動が積極的に行われないので幽霊部員のようになってしまっている。大学の雰囲気や大学生活そのものにも慣れてきて、中間試験が行われるのももう少し先だということでちょうど暇だった私は、最近別の科の友達に引っ張りまわされて彼女と一緒にある男の追っかけをさせられていた。
超お金持ちな家のお坊ちゃまで跡取り息子。文武両道容姿端麗、しかもピアノやヴァイオリンまで弾ける上に、日本人離れしたモデルみたいな体型で、日本人の体型には到底似合わないだろう服だって難なく着こなしてしまう。私と同じ晴南学院大学人間科学部の社会福祉学科に通う一年生、月山習。それがその男の名前だ。
ちなみに私の苗字は「千葉」なので、学科のクラスで二人ペアを作るときいつも番号的に月山とペアを組まされるのだけど、今この情報はそこまで重要じゃない。
今最重要な問題は、その月山をストーカーしている友達が月山の隣にいる中学生くらいの男の子に、「何あれ!誰よあの子供!」と怒り心頭なことだ。
私立晴南学院大学は、裕福な家庭の御子息御令嬢が多く通うセレブ校だ。私?私はちょっとだけ余裕のある家庭に生まれた一般人。本物のセレブはこの大学附属の初等部から通ってる人たちだ。それこそ月山みたいな。
同じ科にセレブお嬢様の一人がいるけど、今まで住んできた世界が違うんだなっていうのはちょっと話せばわかる。何と言ったって、その子の挨拶は「おはようございます千葉さん。今日もお元気そうですね」だ。同級生への挨拶にしては随分と丁寧だが、それが彼女の普通らしい。教養科目で一緒のクラスになり、科も同じだということが分かってから一気に仲良くなったけど、どれだけ仲良くなってもその子から敬語が抜けることはない。科で出来た初めての友達のその子は、医者の娘だからか箱入りでほんわりしていて少々とぼけたところがあるけど、素直で可愛くて良い子で私は彼女が大好きだ。今時黒髪なのもぐっとくる。他の人が染めないのかと聞いてきたとき「染料のにおいが苦手なんです」って困ったように微笑みながら答えたのも繊細っぽくてさらに良い。今私の横で某コーヒーチェーン店のバニラフラペチーノを飲みながら「誰よあれ~~~」とジト目で月山の横にいる少年を睨みつけている友達に、その繊細さを半分分けてほしいくらいだ。
「誰って、月山の友達じゃないの?」
「でもどう見たって中学生じゃん。あの月山君が中校生なんて相手にするわけない!」
「月山の交友関係あんた全然知らないでしょ……」
そういう私も知らないけど。ああ、でも小学生みたいに小さい子……堀さん?って友達がいるのは知ってる。堀さんもなかなかに突飛な人らしいので、同じ突飛な中身の持ち主同士気が合うんだろう、たぶん。私は普通の人間なのでそこらへんは分からない。
「ていうか、月山のどこがいいの」
二ヶ月も一緒に授業を受けていれば分かるけど、月山は見た目はそんじょそこらのモデルなんて目じゃないくらい良いくせに、中身はとても残念だ。私も最初は「え、こんなに格好良い人とペア組めるなんて私って超ラッキーじゃん!」と思っていたけど、すぐにそれは間違った感想だと考え直した。目立たないと死ぬのかってくらい、彼は目立つ。本人が目立とうと思って目立っているわけじゃないのは後から次第に分かっていったんだけど、彼はとにかく奇想天外な言動が多い。行動はいちいち芝居がかっているし、言うことは気障ったらしいし。しかもそれが似合っているのだからどうしようもない。最初の頃は「月山くぅん!」とハートを飛ばしながら彼に話しかけていた私だけど、一ヶ月する頃には「ねえ月山」と呼び捨てに変わっていた。
でも、香水を変えたとか髪を3センチ切ったとか、髪の色をダークショコラからロイヤルショコラに変えたとかマニキュアを新しいのにしたとか、そういう気付いてほしいところにちゃんと気付いてくれるあたり月山は良い男だ。大学一年生でありながら社会人……というより、帰る場所のある妻帯者みたいな落ち着きを持ってるのも、突飛な振る舞いの多い彼が女性に好かれる理由なんだろうな、とは思う。私は「ミス・ディアー」なんて呼ばれ方されるのが嫌で、最近ではそこまで積極的に関わろうとしてないけど。
「どこが良いって……そりゃ顔よ!」
ストローから口を離し、友達が右手の拳を空へ向ける。
彼女は中学からの友達だけど、面食いなところは大学生になっても変わらないみたい。中身は二の次で、顔が良ければ何でもいいらしい。私たち二人がいるテラス席から離れたところにあるベンチに、月山とその中学生らしき男の子は座っていた。
木陰にあるベンチは、天気の良い日の昼時はいつも誰かが座って昼食を食べている。東京はつい先週梅雨入りしたばかりだったけど、今日は夏のようにからりと晴れた良い天気だ。今日は二講目と五講目しかなかったので、学食で昼食を食べたら一端家に帰ろうと思ったのに、「鶏肉のレモン煮なんて良いな」と思いながら食堂に入ろうとしたところで彼女に捕まってしまった。そのまま入り口近くのテラス席に連れて行かれ、「ちょうど良いところに!あの中学生誰だか知ってる!?」と問い質された。友達が指差す先を見ると、離れたところに彼女が現在絶賛追っかけ中の月山がいて、楽しそうに横に座る少年と談笑していた、というのがこれまでの経緯だ。
遠くて二人が何を話しているのかは全く聞こえないが、いつもより月山の表情が柔らかいことに驚く。月山といえばいつもスカした顔でいる印象が強かったので、月山がそんな面様で笑いかける少年が、一体誰なのか友達が気になるのは仕方ないのかもしれない。私だって凄く気になる。
もうちょっと近寄れば会話も聞こえるのだろうが、そうすると今みたいに二人の様子をじっくり伺うことが出来なくなる。玉座か何かのように優雅にベンチに座る月山と、その横でちょこんと控え目に座ってる少年の関係が一体どんなものなのか、私じゃ到底判断が付かない。随分と仲が良さ気だからさっきは適当に友達じゃないかと思ってみたけど、それにしては年が離れているように思える。じゃあ兄弟かと思うが、血の繋がりを示すにはあまりに二人の顔は似ていない。というか少年、今日は平日だけど君学校には行かなくていいのか。二人の関係性について考えながら眺めていると、ベンチに陰を作っていた木からひらりと一枚葉っぱが散って、少年の頭に落ちた。月山が小さく笑ってそれを取ると、少年に話しかける。それに少年のほうが眉尻を下げて困ったように苦笑すると、月山に何か言い返していた。内容が聞こえないのがもどかしい。
「あーもっと近づきたい!話全然聞こえないじゃん!」
「あら千葉さん?今日はテラス席で食べているんですね」
私がうがー!と声をあげながらテーブルに突っ伏していると、そこに声を掛けてきた人がいた。顔を上げると、同じ科のお嬢様な友達が立っていた。手にはコーヒーの缶を持っている。胸元から袖に掛けてレースが施されたフェミニンな紺のプルオーバーに、膝下丈のオフホワイトチュールスカートを穿き、スエード地でラウンド型トゥの黒いパンプスを履いていて、見た目は可愛いのに無糖ブラックだなんて、そういうところもギャップがあって良いなあと関係ないことを思っていると、お嬢様じゃなくて繊細さもない方の友達が、お嬢様な方の友達を速攻で同じテーブルに座らせた。お嬢様じゃない方の友達がお嬢様じゃない方の友達に……ああ、もう。ややこしいからここでは仮にお嬢様な方をA子、そうじゃない方をB子ってことにする。突然椅子に座らされてきょとんとしていたA子の服の裾をB子が引っ張って、遠くにいるベンチの二人、もっと言えば少年の方を指差した。
「A子さん!あの子誰だか知ってる?」
B子が差した方に顔を向けたA子は、指し示す先にいる月山と少年のほうを見て、知ってますよと答えた。
「月山君の横にいる人でしょう?カネキ君ですよ」
「知り合い?」
「そうですね、お友達です。私の弟がカネキ君と同じ高等部にいるんですよ。今日は高等部がお休みなので遊びに来たんでしょうね」
おや、カネキ君とやらは中学生じゃなくて高校生だったらしい。そして学校が休みなので、カネキ君は無断欠席したわけでもなかったようだ。
A子があの少年と知り合いなら、二人の関係も知っているだろうと思い訊いてみる。
「あの子、月山とどういう関係なの?」
「カネキ君は月山君の……なんと言ったらいいんでしょう、端的に彼と月山君の関係を表すなら最も相応しい言葉は『家族』なんですけど、周りからは恋人でお嫁さんでご主人様だと言われてましたよ」
「え、なにそれ」
私の横でB子も首を傾げて不思議そうにしている。私たちの反応が分からなかったのか、A子のほうもこてりと首を傾げるが、「ああ!」とぽんと手を打った。
「千葉さんもB子さんも大学から晴南学院に編入したので知らないのですね。高等部で月山君と一緒だった人は、みんなカネキ君のことは陰でこっそりそう呼んでいたんです。月山君がカネキ君をとても可愛がっていらしたので」
「あの月山が?」
月山は気障ったらしい言動と柔らかい物腰でごまかしているが、常に周りと一線引いているような印象があったので、彼が誰かを甘やかす姿なんて想像できなかった。いや、遠くのベンチでは現在進行形で甘やかしてそうだけど。
「カネキ君が中等部に途中編入してきたときには、もう月山君は骨抜きにされていたみたいですよ?なんでもカネキ君はお家の事情で、月山君の家に引き取られたとか。だからあのお二人は家族なんです」
へえ。じゃあ血が繋がってるわけじゃないんだ。ごくごく普通の家庭で幸せな生活を送ってきた私は家族といえば血が繋がっているものだと思っていたけど、世の中にはいろんな事情を抱えた人がいるんだから、そういうこともあるのか。あ、でもお母さんとお父さんは血が繋がってないけど立派な家族か。そう考えれば、同じ血が流れてることだけが家族じゃないんだなって簡単に理解できる。
「ところでさ、あの二人近くない?」
家族というのは分かったので、やっぱり二人の関係は兄弟みたいなものだろうと思ったが、遠目に見える二人は、周りに仲の良さを見せつけたがるカップルかとでも言うふうに距離が近かった。
「そうですか?いつものことですよ。あんなに寄り添いあっているのに、仲の良い恋人同士のようですねと言うと、二人とも不思議そうな顔をするんです」
「あ、じゃあ、さっき恋人とか言ってたけど、二人は付き合ってるとかそういうのじゃないんだ?」
「そうですね。カネキ君は常に月山君の斜め後ろを歩いて、月山君の世話を甲斐甲斐しく焼くのでお嫁さんみたいだねとも言われていたんです。弟がカネキ君から話を聞く限り、亭主関白というよりはかかあ天下らしいですけどね」
「なら、ご主人様っていうのは?」
「ご主人様というのも、周りが二人を見て内緒で言ってることですよ。月山君はカネキ君が視界に入ると誰と話していてもすぐに会話を切り上げて、一も二もなくそちらの方へ行ってしまうので、その姿がまるで忠犬みたいだって。忠犬の飼い主ならご主人様でしょう?」
「月山が忠犬……」
A子と話したこの数分間で、月山のイメージがどんどん変わっていく。スカしたキザ野郎じゃなくて、恋人に尻に敷かれる犬系彼氏みたいな、情けないんだか幸せなんだかよく分からないやつだったようだ。B子は横で、口元に手を当てながら「忠犬……?いやでも忠犬って忠誠を誓ったナイトみたいだし、そんな月山君も格好良いんじゃ……?」とぶつぶつ言っている。いや、忠犬はナイトではないだろ。
「高等部の頃のお話、もっと聞きますか?」
「聞きたい!」
私が答える前に、B子が身を乗り出して答えていた。私はちょっと聞きたくないぞ。だって、静かなんだからそこまで近付かなくても声は聞こえるだろうにあんなふうに耳元で話しかけてはいちゃついてる、もとい談笑している二人の話なんて、どうせ碌な話じゃないに決まってる。しかも碌でもないのは月山のほうだけに違いない。だって、カネキ君はあんなに良い子そうだ。良い子なんだろうな、って人に思わせるオーラが漂っている。
「中等部と高等部は同じ建物内にあるんですけど、当然毎日二人一緒にお昼ご飯を食べてましたね。中等部では二年生の時に学年全体で二泊三日の合宿が行われるのですが、その時の月山君ったら本当に面白かったんです!ずっと不機嫌そうな顔で『なんで合宿なんてあるんだ』って」
「へえ、月山君って家族を大切にしてるんだね!」
B子、月山を良いふうに捉えすぎでしょ。私は家族が合宿に行ったくらいで拗ねる男子高校生なんて見たことないぞ。
「そうそう、とても大切にしているんです。でも月山君ったら時々他の人に現を抜かしちゃうので、そのたびにカネキ君が拗ねて大変なんですよ。毎回大変な思いをして機嫌を直しているのに月山君ったら懲りずに何度もやるものだから、周りも呆れていたんです。あんなに独占欲が強いならカネキ君以外を見るのやめれば良いと思いません?カネキくんの身に付けるもの何もかも、全部月山君が選ぶくらいなのに」
「ぜ、全部!?全部って服とか靴とか時計とか全部!?」
「全部です。弟情報なので間違いないですよ」
上はカジュアルなコットンホワイトシャツに、ミドルショート丈のネイビーのテーラードジャケット。下はワインレッドのカラーパンツにスエードウィングチップのシューズ。あのカネキ君の服は全部月山コーディネートなのか。男物のブランドは全然知らないけど、大量生産大量販売を目的とした安物じゃないだろうなっていうのは分かる。
いくら家族だからってそこまでやるだろうか。血の繋がった兄弟だってそこまでやらないと思う。
「えっと……可愛がりたくて仕方ないんだよね、きっと……」
「B子、それは可愛がるっていうレベルじゃない気が……」
「金に物を言わせて恋人を束縛する彼氏みたいでしょう?月山君って大学に入ってからマンション暮らしを始めたらしいんですけど、カネキ君を一人実家に置いていくのは不安だって一緒に暮らしているんですよ」
「はー……なんていうか、超過保護だね……」
月山の思わぬ一面を垣間見てしまった。
「月山君があそこまで過保護になるのも私は分かりますけどね。カネキ君って、とっても美味しそうなんだもの」
「ん?A子って年下好きだっけ?」
「いいえ?私はどちらかというとお父様のような年上の方が好きですね。それにお手つきは絶対にしません。月山君を怒らせたくないので」
うふふ、と花を飛ばしながら笑うA子は可愛いけど、相変わらずぽやぽやとしていて掴み所がない。つまり、カネキ君は思わず手を出したいくらい可愛いけど、月山ががっちりガードしてるから手を出せないし、そもそも月山が怒るから手を出すつもりはないってこと?
まあでも、確かにカネキ君は遠目に見ても可愛い顔をしているなと思う。年上にモテそうなタイプだ。カネキ君がへにゃっと笑いながら服の裾を摘まんできたり引っ張ってきたりすればきっと凄く可愛いに違いない。私なら思わず抱きしめてしまう。
その時、月山が私たち三人の方へ視線を寄越した気がした。一瞬そう見えただけなので、たぶん気のせいだろう。だってこんなに遠いんだから、私たちの会話が聞こえるはずがない。
「月山って怒るとそんなに怖いの?想像つかないや」
「以前カネキ君が喧嘩に巻き込まれて怪我をしたときの彼の怒りよう、千葉さんにも見せたいです。後で月山君が喧嘩していらした人たちのところにわざわざ行って、直々にきつーくお灸を据えていたんですよ?カネキ君が怪我をしているのを見たときの月山君のあの冷たい炎みたいな顔を見たら、誰も怒らせようなんて思いません」
A子は肩を竦め苦笑する。月山の無駄に端整な顔で睨まれたら、その迫力が並みじゃないのは確かだろう。
「だから、B子さんも追い掛けるなら月山君以外にしたほうが良いですよ。彼、カネキ君以外にほとんど興味示さないので」
「えー、でも月山君がうちの学部で一番格好良いもん」
「なら商学部の三年生の方はどうです?」
A子がB子に新しい追っかけ先を紹介しているのを聞いて、次はその男の追っかけを手伝わされるのか、なんて思いながらベンチの二人の方をちらりと見てみると、驚いたことにカネキ君と月山が何か言い争っていた。というより、カネキ君が月山に怒っていて、困り顔の月山が何とかそれを抑えようとしているように見える。
その姿はどこからどう見ても痴話喧嘩で、なるほど確かに恋人同士っぽいなあと、他人事のように思った。ていうか他人事だしね。
そして五講目、今日の学科の授業はペアワークだったなと思い出しながら、先に来ていたらしい月山の横に座る。と、そこで月山の周りの空気がいつもよりどんよりしていることに気付く。普段のあの無駄に堂々とした雰囲気を捨て、両手を口の前で組み黒板のほうを睨みつけている。
「月山、今日のペアワークよろしくね」
「ああ……ところでミス・ディアー。君は家族が自分に怒っていたら、どうやって対処する?」
「なに、やっぱりさっきのカネキ君とのあれ、喧嘩だったの?」
「どうしてカネキくんの名前を……ああ、そういえば先程ミス・スパロウと共にいたね」
ミス・スパロウって誰だ、と思ったけど、A子のことだと気が付く。
いつもなら私が声を掛けると「今日も美しいねチャーミングレディ」とかなんとか言ってくるのに、今日はそれがないってことは、カネキ君との喧嘩で相当落ち込んでるらしい。
「まあ……そうだね、喧嘩だろうね。僕の行動で彼を怒らせてしまって」
「それなら誠心誠意謝るしかないんじゃないの?月山だって自分の行動が原因って分かってるなら普通に謝っちゃえばいいのに。ていうか何やったの?浮気でもした?」
「いや、ちょっと彼に秘密にして外で食事をしたら、それがばれてしまって……」
浮気じゃないのか。いや、そもそも二人はただの家族なんだし浮気も何もあったもんじゃないか。
「内緒にするから駄目なんだよ。なんなら星でもプレゼントしてあげれば?インパクトで怒ってること忘れちゃうんじゃない?」
「星の所有は宇宙条約で認められていないよ」
「それくらいインパクトあることすれば良いってこと。まあでも、謝るのが一番ねやっぱり」
今まで月山のことは気障ったらしいやつだと思っていて、これから四年間同じ学び舎でやっていけるのか心配だったけど、こうやってカネキ君を怒らせて落ち込んでいる姿を見ると、何だか仲良くやっていけるような気がしてきた。
月山さんによるカネキ君激甘伝説の一端を垣間見る同級生。
前作でカネキ君が月山さんの顔のことめちゃくちゃ褒めてたのは私が月山さんの顔大好きだからで、今回月山さんの顔がめちゃくちゃ褒められているのは私の趣味です。