顔立ちは男だった以前とよく似ているが、元男の目から見ても、今の自分は相当美人な部類に入ると思うのだ。

 腰まで伸びる艶やかな紫の髪、白磁のような肌に、淡く薔薇色に染まる頬、くるりと上を向いた長い睫毛に、宝石のような輝きを持つ琥珀の瞳、ふっくらとした紅に色付く唇。胸は思っているほど出なかったが、細身の体型には手に収まるくらいの大きさのほうがバランスが良く見える。無駄な肉のついていない手足はしなやかで、細く長い指先の爪は桜色をしている。女にしては身長は高めだったが、以前の彼の身長よりは小さいので、隣に立ってもバランスは良いだろう。

 以前男だった時もなかなかの美丈夫だったと自負しているが、今も満場一致で美人だと褒めそやされる外見だ。ユリウスが優しく微笑めば、顔を赤くしない男はいなかった。

 

「よし」

 

 きゅ、と胸元で赤いスカーフを結ぶ。後ろを確認するために姿見の前で反転すれば、制服のプリーツスカートのひだがふわりと花のように広がり、白い太ももが一瞬だけ鏡の中に映った。後姿も問題なし。三百六十度、どこから見ても一点の曇りもない淑女だ。世間が求めるユリウス・ユークリウスの姿がそこにはあった。

 これだけの美少女なら、たとえスバルが前世のことを覚えていなくても落とせるだろう。前回は男同士でもスバルはユリウスを愛してくれたのだ。それでどうして男女で好きにならないわけがあるだろうか。性別なんて些細な問題だが、元々異性愛者だったスバルを落とすなら女の方が手っ取り早い。大丈夫だ、今日も自分は魅力的だ。

 鏡の中で自信に満ち溢れた顔で笑う少女は美しい。学校では高嶺の花扱いされているユリウスだが、男女共に告白してくる者は後を絶たなかった。告白の断り文句はいつも「心に決めた相手がいる」だ。ユリウスが内面ではなく女性としての見た目の美しさを磨いているのは、ひとえに前世の恋人のためだ。彼が愛した女性達に負けぬよう、何より、以前の男の自分に負けぬように常に努力し続けなければいけない。

 

「……スバル」

 

 再会を願い名を呼べば、その三文字の響きだけで心に甘やかな温度が広がる。

 ユリウス以外の誰も以前の記憶は持っていないが、きっとスバルならまた以前と同じように彼らと仲良く出来るだろう。それに、以前はいなかった存在も大勢いるのだ。ユリウスの実父に、学園の生徒会長であるクルシュの許嫁、一つ年下になった友ラインハルトの祖母など、挙げだせばキリがない。フェリスを通して仲良くさせてもらっているクルシュの許嫁のフーリエは、以前はスバルがルグニカへ来る前に亡くなってしまった存在だが、きっと彼ならスバルと気が合うことだろう。微温湯のように平和なこの世界で、スバルに紹介したい相手が大勢いるのだ。

 ああ、いつになったら、彼に会えるのだろう。

 

 

 

 

 

 緊張している新入生達の胸元にコサージュを付けていく。コサージュを付け終わると長机の上にある入学式のパンフレットを一部手渡し、「入学おめでとうございます」と微笑みかける。アナスタシアに任された仕事だが、見目麗しいユリウスに迎えられた少年少女達がぱっと頬を赤く染めて、これからの学校生活に期待を膨らませて教室へ向かう姿を見れば、彼女の采配は間違っていなかったと言えるだろう。ユリウスの隣には同じようにクルシュに受付係に任命されたフェリスがおり、彼ににっこりと笑いかけられた少年少女達も同じような反応をしている。ユリウスと同じ女子生徒の制服を着ている彼が男だとは、恐らく誰も気付いていない。

 そうやっているうちに、コサージュもパンフレットも残り少なくなってきた。手元の腕時計を見て時間を確認すると、受付終了時間が近付いていた。この後も入学式の裏方の仕事があるので、片付けられるところを今のうちに片付けておこうと、机から出て、見えにくいところに貼られた花飾りを取っていく。

 

「あの、受付良いですか?」

 

 壁から取った花飾りが五を超えたあたりで、柔らかなアルトが後ろから聞こえてきた。顔にかかった髪を白い指で耳にかけながら振り向いて――視線の先にいた人物に、ユリウスは目を瞬かせた。

 

「……スバル?」

 

 目付きの悪い黒い瞳。不機嫌そうに見えるが、ただの生まれつきだと知っている。知らないわけがない。その目の持ち主を、ユリウスはずっと求めていたのだから。

 

「スバル……!」

 

 気が付けば、その体を抱きしめていた。動いた拍子に机にぶつかってしまい、机の上からコサージュ達が零れ落ち、パンフレットが何部か床に落ちていったが、今はそれどころではない。左手に持っていた花飾りがすべて落ちたが、あとで拾えば良いことだ。

 受付をしようとしていたということは、新入生ということだ。以前より華奢で柔らかく感じるのは、これから成長期が来るからだろうか。女となったユリウスよりも小さく感じるし、何だか頬を擦りよせている髪も長く……長く? そう、長い。スバルの背に回していた右手にも、さらりとした髪の感触がある。

 

「……髪が、長い」

 

 バッと抱きしめていた体を離した。華奢な肩を掴んだまま、上から下まで眺めた。

 母譲りだという三白眼は変わらないが、ユリウスが知るよりも柔らかな印象を受ける顔立ち。先程ユリウスが疑問を感じた黒髪は長く、後頭部で一括りにされて背中の中ほどまで伸びている。縁に白い線が三本入ったセーラーカラーの付いた紺のセーラー服に、同色のプリーツスカート、赤いスカーフが胸元で結ばれており、足は黒のタイツに包まれている。性別を感じさせないのは足元の内履きくらいだろうか。

 むぎゅり。

 

「おい」

 

 手を伸ばして、セーラー服を押し上げる豊満な胸を両手で掴んだ。目の前の少女は口では文句を言ってくるが、止めようとはしてこない。一つの手でなんとか片方を包み込めるほど豊かなそれは柔らかく、ユリウスの手の中でふにゃりと形を変えている。作り物とは思えない。ユリウスのものよりもかなり大きいが、明らかに本物だ。

 

「おい、ユリウス、おい。無表情で初対面の相手のおっぱいを揉むな」

 

 初対面と言いながらも、ユリウスの名を知っていたことが決定打だ。この少女こそが、ユリウスが再会を心待ちにしていたナツキ・スバルであった。

 

「何故女なんだ……。私が女として生まれてきたのだから、男のまま生まれてきてくれれば良いものを……」

「人が親からもらった性染色体に文句言うなよ……。むしろ前の上下的に、お前が男で生まれてくるべきところだろ、ここは」

「私の方が先に女として生まれたのだから、君が合わせてくれ」

「んなこと言われても困るんだけど……。あといい加減おっぱいから手を離せ」

 

 心惜しかったが、しぶしぶ柔らかな感触から手を離した。自分の胸を揉んでも何も楽しくないが、スバルの物だと思うといくらでも触っていたかった。あとでもう少し触らせてもらおう。スバルの胸ということはつまりユリウスの物なので、人がいないところなら触っても文句は言われないだろう。

 

「君は一年生か」

「おう。二回目の高校生活は薔薇色で行きたいもんだな」

 

 どちらかというと百合色じゃにゃいかにゃあ、と二人のやり取りを少し離れたところで見ていたフェリスは思ったのだが、二人の世界を作っているところに入りたくなかったので、口には出さなかった。

 

「お前は? お姉さまって呼ばれてそうな見た目だから三年?」

「その理由はよく分からないが、確かに私は三年だよ」

「ふうん」

 

 口を尖らせて残念そうな顔をしているのは、一年しか同じ学び舎にいられないことを口惜しいと思ってくれたからだろうか。スバルがユリウスと同じ気持ちでいてくれれば良い。

 

「あ、受付頼むわ」

「ああ、そうだったね」

 

 机の上に一つだけ残っていたコサージュを取り、制服の胸元に付けた。付けたついでにその胸に手を置くと、スバルがむっすりと不満げな表情を浮かべる。

 

「そんなに俺が女で残念かよ」

「まさか。けれど、二人でやれることはほとんどしたが、子を為すことだけは出来なかったからね。少し期待していたのは否めない」

「そっちは来世に期待しろ」

「来世」

 

 ぱちりと琥珀の目を瞬かせた。どうやら次も、スバルはユリウスのものでいてくれるらしい。

 

「ああ、分かった。次に期待させてもらおう」

 

 薄紅の唇に笑みを浮かべ、スバルの顎に手を沿えた。次も記憶が残っているかは分からないが、たとえ記憶がなくてもユリウスは、スバルがスバルである限り、惹かれるに違いない。

 

「入学おめでとう、スバル」

 

 添えた手で上を向かせて、そのままスバルに口付けた。胸は随分と柔らかくなっていたが、どうやらここの柔らかさは以前とあまり変わっていないようだ。見開かれた黒い瞳を見ながら、ちゅ、とリップ音を立てて、重なっていた唇を離す。

 

「なっ、おま、この、ばっ……!」

 

 何してんだお前、この馬鹿、と言いたいのだろうが、まったく言葉になっていない。頬を染めるなんて可愛らしい状態を越えた、耳まで真っ赤に染まったスバルがそこにはいた。涙を浮かべた目でユリウスをキッと睨むと、机の上のパンフレットを掴んでそのままバタバタと走り去ってしまった。

 キス以上のことをした記憶もあるはずなのに、やけに反応が初々しい。そういえば、以前はユリウスなしではいられない身体になっていたスバルだが、それはもう全部リセットされてしまったのだろうか。

 

「……ユリウス、すっごい悪い顔してるよ」

 

 二人の成り行きを見守っていたフェリスが、口に手を当てて少々怯えた様子で声を掛けてきた。

 

「そうだろうか。これからが楽しみだと、そう思っていただけなのだが」

「うわー、フェリちゃん、あの子にちょっと同情しちゃう」

「可愛がるだけだよ」

「フェリちゃん、あの子に凄く同情しちゃう」

 

 何故言い直したのだろうか。

 スバルが走り去っていった先を見つめる。好奇心や向上心に駆られて二人でやれることはほとんどしたが、十五歳のスバルを見るのも、女性となったスバルを見るのも、今日が初めてだ。

 きっと、楽しい一年になるだろう。 

 

 

はじめまして、愛しい人

 

 

元ネタツイート→転生現パロで、今世では女として生まれたユリウスが「以前もなかなかの美丈夫だったが、今世もかなりの美人じゃないか?これなら、たとえスバルに記憶がなくても落とせるな!」って自分磨きしつつスバルとの再会を心待ちにしてたんだけど、実際再会してみたらスバルも女になってた百合ユリスバください

 

 

この後、ユリウス♀はスバル♀が胸だけでイけるよう体に教え込んだりするんじゃないですかね。

 

 

来世は兄弟とかだと思う。

 

 

タイトル:George Boy様(http://george.little-dipper.info/)