「お、イベント始まってんじゃん」

 

 ベッドの上で転がっていたスバルが起き上がりながら呟いた言葉に、部屋の中で思い思いのことをしていたスバルの友人三人が顔を上げた。赤髪の少年ラインハルトは部屋の中央のローテーブルで明日の予習を、紫髪の少年ユリウスはベッドに寄りかかり本棚から本を拝借し読書を、灰色の髪の少年オットーは部活の話し合いで使う資料のまとめを行っていたところだった。

 面子はその時々で増えたり減ったりするが、放課後にこうしてスバルの部屋に集まるのは彼らにはよくあることだ。それぞれ別々に好きなことを勝手にやっているので、同じ学校のクラスメートであり友人でもあるフェリスには一緒にいる意味があるのかと言われるが、スバル以外の三人はスバルが目の届く範囲にいるだけで満足できるので、同じ空間にスバルがいることに意味があるので問題はない。何故そう感じるのか理由は分からないけれど、三人全員(だけでなくスバルの周囲にいる友人のほとんど)がスバルに対して、ちゃんと見ていないと事件に巻き込まれそうで危なっかしいという共通認識を持っていた。

 

「それお前が読んで面白いのかよ」

 

 手にしていたスマホから目を放し、ベッド脇の壁にもたれていたユリウスが持っている本を見てスバルが目を丸くする。スバルの本棚から何か本を取り出していたのは知っていたが、まさかライトノベルを読んでいるとは思いもしなかったのだ。普段はスバルには理解できない小難しい数式や単語が羅列された本を読み、小説ならもっぱら純文学ばかりなユリウスが、イラストが挿入されたものを自分から進んで読もうとしていることに驚きを隠せなかった。

 

「ふむ、なかなか興味深い内容ではあるね。娯楽に特化し若い年齢層を対象としているだけあり、起承転結がわかりやすい。物語を登場人物達が軽快な話し口で進めていくのも読んでいて小気味良いな。普段の君と話し方が似ている主人公が多いのは、私が歴史上の偉人に強い興味を抱くように、君が彼らに対して何らかの強い気持ちを抱いているからか?」

「ラノベに影響受けすぎって言われてんのは理解した」

 

 どうやらそれなりに楽しんで読んでいたらしい。スバルとの会話を終えると、またすぐに手元の本へ視線を戻してしまった。代わりにオットーがスバルへ話しかけてくる。

 

「イベントって、またゲームですか?」

「そうそう。で、一緒に俺がこのゲーム始める前にやってたイベントの復刻ガチャもやんだよ。今回は発表が遅かったせいもあって、クリスタル集めるの間に合わなくて10回ちょいしか回せなさそうなんだけどな」

「またイベントに夢中になって課題提出忘れる馬鹿やらないでくださいよ」

「いや、あの時は違うんだよ……。イベント報酬の銀髪美少女が超可愛くてだな……!」

「現実にエミリアさんがいるのに、まだ二次元に銀髪ヒロインを求めるんですかナツキさん……」

 

 むしろエミリアが傍にいるために、スバルはさらに銀髪ヒロインが大好きになっていく。銀髪ヒロインを好きになればなるほどエミリアが好きになり、エミリアを可愛く感じるほど銀髪ヒロインがさらに可愛く見える。好意のインフレスパイラルだ。

 呆れたような眼を向けてくるオットーを無視して、スバルはラインハルトの方へ体を向けた。 

 

「というわけで。ラインハルト、指貸して」

「うん」

 

 スバルの差し出された右手に、素直にラインハルトの右手が重ねられた。背筋をピンと伸ばして正座している状態でそれをやられると、犬相手にお手でもやらせているような状態になる。スバルはベッドの上で座り、ラインハルトは床に座っているから余計にそう感じるのかもしれない。三角のふわふわした赤い耳と、ぱたぱたと揺れる赤い尻尾の幻が見えて、スバルは眉尻を下げると、目元を緩めて困ったように笑った。

 

「ラインハルト……頼んでる俺が言うのもおかしな話だけど、たまには拒否して良いんだぞ?」

「スバルが僕を求めてくれるのなら、微力な我が身ではあるけれどいつだって力を貸すよ。僕は喜んで君の指先になろう」

「なんでだろうな。いつも通りの発言なのに、ないはずのトラウマがぐっさり抉られる感じがしたのは」

「私も何故か背筋に嫌なものが走った……」

 

 ラインハルトの微笑みはいつも通り爽やかで見る者に安心感を与えるものなのに、何故かぞわぞわとした嫌なものがスバルの脳を舐めた。スバルは鳥肌が立った二の腕をさすり、ユリウスは柳眉を曇らせて額に手を当てて、謎のぞわぞわが落ち着くのを待つ。

 

「こんなぞわぞわしたの、エミリアたんの苗字聞いたとき以来だわ……」

「エミリアさんのロマネコンティって家名、そんなにおかしいですか?」

「いや全然おかしくないんだけどな……なんでだろうな……。この感覚を唯一共有できるのがユリウスってのも訳分かんねえし……」

「僕の至らない発言が君達を不快にさせてしまったのなら謝ろう」

「いやラインハルトに非は一切ないから大丈夫。むしろこっちこそごめん、手握りっぱなしだったな」

 

 右手に乗せられたラインハルトの手をずっと握っていたことに気付いて、スバルは手を放した。何故か残念そうな顔をするラインハルトに首を傾げながら、「あっ」と小さく声を上げる。

 

「なあ、引いてもらう時の動画撮っても良いか」

「構わないけど、何かあるのかい?」

「いやさあ、俺結構ガチャのスクショリゼッターに上げてるんだけど、ラインハルトに単発で引いてもらったやつ上げてると『実は重課金者なんじゃ』って疑われるんだよな。イベントのたびにラインハルトに引いてもらってて手持ちクソ強いからランカーになれてるけど、俺無課金主義なのに」

「それだけ楽しんでおきながら無課金って、製作側としてはたまったもんじゃないでしょうね」

「チートツール使ってる疑惑のせいでアカウント凍結危機に陥った回数は数知れないぜ!」

 

 親指を立てて笑うスバルに、オットーが溜め息を吐く。

 

「んじゃ、オットー、スマホ貸して」

「はあ、なんで……ああ、そっか、ナツキさんので回すんですもんね。ていうか僕が撮りますよ、映りたくないんで。ナツキさんのアカウントに入っておけば良いです?」

「よろしく」

 

 スバルを除いた三人の中で唯一リゼッターをやっているのがオットーだ。時々オットーのスマホからスバルが呟くこともあり、スバルのアカウントにもログインすることができる。「僕相手とはいえ不用心ですよ」「? オットーなら問題ないだろ?」「ナツキさんのそういう……ああもう、これ完全に僕手玉に取られてません?」という会話が過去にあったことを一応明記しておこう。

 スバルがベッドを下り、代わりにオットーがベッドへと上がる。スバルがラインハルトの横に座ったのを確認して、声をかけた。

 

「お二人とも、撮りますよー」

「ういー」

 

 指が画面の中の赤い丸に触れる。ピピッ、と電子音がして、録画が開始された。

 

 

 

 

 

 画面には、黒髪と赤髪の後頭部が映っている。ベッドに背を預ける状態となっているので、二人の顔は見えない。

 どうやら二人のパーソナルスペースは非常に狭いようだ。学校の友人同士だと思われるが、その距離はゼロに等しく正座して肩をぴったりと寄せ合った状態で座っている。高い位置から撮っているカメラにも映るように、画面の角度を調整しながら、黒髪の少年が赤髪の少年に引いてもらいたいカードを教えていた。

 

「今回のやつだと……星6がこれとこれとこれと、あと星5のこれが欲しいんだ。強化用に星6それぞれ3枚ずつあれば一番良いんだけど、まあそこは良いや」

「いつも通りこのボタンを押せば良いんだね?」

「よろしくお願いします!」

 

 正座したまま、スマホの画面を隣の赤髪の少年の前に差し出し、黒髪の少年が頭を下げた。赤髪の少年は一度画面に右手の人差し指を伸ばしたが、何か思い立ったのか、すぐ左の黒髪の少年を見下ろして、左手を差し出した。

 

「スバル、手を握ってもらっても良いかな」

「なんで?」

 

 黒髪の少年が顔をあげて、首を傾げる。不思議そうにする友人に、赤髪の少年は目を細めて笑いながら理由を告げる。神に愛されている証のような整った造形をしている顔立ちが、微笑むことにより誰もが見惚れるほどの美しいものとなる。

 

「スバルと手を繋ぐと、いつも良いことが起こるんだ」

「別に良いけど、お前と俺が手繋いでも俺にしか御利益なさそうじゃね?」

 

 しかし黒髪の少年に、神の愛し子の微笑みに動揺した気配は全くない。彼は何の躊躇いもなく、差し出された左手に自身の右手を重ねた。そのまま指を絡めて、手を握る。俗に恋人繋ぎと呼ばれる繋ぎ方だが、どちらもそれを気にしている様子はまったくない。

 

「これで良いか?」

「ありがとう、スバル」

 

 赤髪の少年は礼を言うと、ぽちりと、画面に触れた。そして、ガチャが始まった。

 

 画面の中に、10個の宝石が降ってくる。内9個のエフェクトがやけに派手だ。七色の光を放ちながら降ってくる9個の宝石と、それらには劣るものの、非常に自己主張の激しい白く輝きながら降る1個の宝石。

 10連ガチャは、星6が3種各3枚の計9枚、星5が1枚という、黒髪の少年が先程お願いした通りの結果になった。

 

 このゲームのカードの最高ランクは星6だ。1発で引ける星6を確率は3%である。もはや激レアとはなんだったのか。しかも、こうもぴったり特定の物を狙いすましてとは。

 あまりに想像を超えた結果だったのだろう。少年二人が発したものでも、画面の隅で壁にもたれかかりながら読書をしている少年が発したものでもない、「うわっ……」とドン引きしたような声が入る。恐らく撮影者のものだろう。「ナツキさんブーストが入るとこんなことになるのか……」と小声で呟いているのもマイクはばっちり拾っていた。

 黒髪の少年は驚きで、少々きつい目付きの黒い瞳を真ん丸に見開き、手の中でガチャの結果を映し続けているスマホと、微笑む赤髪の少年の顔を交互に見る。

 現実を理解し始めた彼は、きらきらと喜びに満ちた目を右隣の友に向ける。

 

「ラインハルト愛してる! もうお前なしじゃ生きていけない!」

 

 感激した黒髪の少年に飛びつかれても、赤髪の少年の身体は揺らがない。その体幹の強さに感心する間もなく、黒髪の少年は友人の首に腕を回して抱きしめて、そのまま「むちゅー」とその白く滑らかな頬にキスをしてしまった。人間タラシの親友のせいで多少のことでは動揺しなくなった優秀な撮影者のおかげで、愛の言葉と頬へのキスを同時に受けてしまった赤髪の少年が意表を突かれた顔をした後、澄んだ海のように青い瞳を細めて、嬉しそうに微笑むところもばっちりカメラは捕らえていた。

 

「スバル、もう少し静かにしたまえ」

「これで落ち着いてられるかよ! 今の俺はめちゃくちゃ機嫌が良い! ベア子に大人気のほっぺちゅーをお前にもくれてやろう!」

 

 先程からのやり取りに全く関わってこなかった(けれど、画面の一部で読書に耽る姿が映り続けていた)紫髪の少年が、本から顔を上げて苦言を呈する。が、ハイテンションの黒髪の少年がそんな文句を気にするわけもない。赤髪の少年にしたように、紫髪の少年にも抱き着いて頬へむちゅーっと熱いキスを落とした。抱き着いてくる黒髪の少年と自分の間に本が挟まれないように、左手で身体の横へ本を避難させつつ、避けて友人が怪我をしないようにちゃんと突撃を受け止める体勢に入っている姿は感心の一言だ。

 「僕は何を撮らされているんだ?」と撮影者が首を捻りだしたあたりで、画面の中の黒髪の少年がカメラ目線になった。にやりと笑ったその表情の意味を、彼の親友である撮影者の少年が分からないはずがない。近づいてくる彼を全力で拒絶した。

 

「僕は良いですやめてください誰も望んでなあああああああ」

 

 ……が、無駄だった。

 抵抗空しく頬にむちゅっとやられている音が入り、動画はそこで途切れた。

 

 

 

 

 

 手元のスマホから、ピピッと録画終了を告げる電子音がした。飛び掛かられた拍子にオットーの手から離れてベッドの上にぽすんと落ちたスマホを、スバルが拾い上げる。

 

「友達の引きが鬼がかってる件っと。よし、送信」

 

 フリック入力でささっと書き込むと、そのまま何の躊躇いもなくスバルの親指は青く四角い送信ボタンを押す。

 

「ナツキさん、今動画編集なしで送信しました?」

「うん」

「……結構問題映像だったと思うんですが大丈夫です?」

「そうか?」

 

 妹のベアトリスの頬や額にキスをすることが習慣になっているスバルにとっては、男子高校生がタコよろしくちゅっちゅやってる動画はそこまで問題でもないらしい。疑問符を頭上に浮かべるスバルに、オットーは肩を落とす。

 

「まあ、僕は良いんですけどね……」

 

 カメラには映っていないだろうし、映っていたとしても、まあ。

 こうして周囲が毎度毎度許してしまうから、スバルは調子に乗ることをやめないのだ。オットーももう少し厳しくしたほうが良いのではと自分で思っているが、如何せんスバルが楽しそうにしている姿を見ていると、ついつい「しょうがない人だなあ」の一言で済ませてしまいたくなってしまうのだ。

 これはオットーだけの話ではなく、先程頬ちゅーを受けてから、左手を見つめて何かを考え込んでいるラインハルトや、何事もなかったようにまた読書に戻ってしまっているユリウスも同じだ。どうにもこうにも、スバルの周囲にいる者たちは彼に甘いところがある。

 

「勝手に顔出しで動画上げちゃいましたけど……」

 

 SNS上では、早速スバルの上げた動画に対して反応が来ているようだ。胡坐をかいたスバルが自分のスマホで、反応を眺めてにやにやしている。

 

「ラインハルトさんの家がナツキさんに寛大なのは話に聞いて知ってますけど、流石にそろそろ怒られますよ」

 

 ユリウスも動画に顔を出しているが、彼はただ本を読んでいて、最後のほうで少しスバルにちょっかいをかけられただけだ。だがラインハルトは、スバルの頼みを善意で引き受けた結果、チートツールも真っ青なことをしている。こんな普通の一軒家に普通に遊びに来ているがラインハルトの家は相当な名家なのだ。先程の動画がネットで広がって、それが彼の家族の耳に入り、大切な跡取り息子にそんなことをさせているスバルが何かしら批判されることだってあり得るのだ。

 オットーが注意すると、スバルは手元のスマホから顔を上げて、オットーの心配を鼻で笑った。

 

「ふっ、甘いなオットーくん。お前が思う以上にラインハルトん家は俺に激甘だ。どれくらいかって言うと、この間何故か夕飯ご馳走になってたときに何故か俺の養子縁組の話が出たくらい!」

「何がそんなに彼の家族を駆り立ててるんですか!? 養子縁組!?」

 

 衝撃の事実だ。友達がナツキ・スバルからスバル・アストレアに改名するかもしれなかったとは。オットーが驚いて大声をあげると、スバルが遠い目で窓の外へ視線を向ける。いつもは強い意志の灯る黒い目が、世を儚んだような色を映していた。

 

「アストレア家全員満場一致で賛成されて、タイミング良くレムが迎えに来てくれなかったら危うくスバル・アストレアになるところだったぜ……」

「流石レムさん……ナツキさんのことに関しての勘が鋭い……」

 

 スバルの隣家に住む幼馴染の青髪の彼女は、スバルを一途に愛する可愛らしい少女だ。ただしその愛は、重く熱く激しい。一にスバルくん、同率一に姉様、三がスバルくんで四もスバルくんだ。スバルに仇なす者を全て排除しようとする彼女の暴走を止められるのはスバルか姉のラムしかいない。

 

「ついでに言うとユリウスん家も甘いぞ。なんでかは俺も知らん。前世の俺が相当徳詰んだとかじゃね? 国救ったとか世界救ったとか」

「あんたがそんなことする柄ですか」

「だよな。ラインハルトとかユリウスならまだしも、俺そんなこと絶対向いてない」

「あー、お二人ならありそうですね」

 

 と言いつつも、ラインハルトやユリウスのスバルへの信頼と親愛の厚さを鑑みると、前世云々はあながち間違っていないかもしれないとオットーは思った。人が欲しいと思っている言葉を、一番良いタイミングに言ってくる男がナツキ・スバルだ。前世のスバルが、国や世界はともかくとして、前世のラインハルトやユリウスを本人だけでなく家族丸ごと全部救っていたとしても、オットーは驚かない自信がある。

 

「俺は精々お前と一緒に悪巧みして、ロズっちの本燃やすとかそれくらいだろ」

「悪事に勝手に僕を巻き込まないでくれますかねぇ!?」

 

 しかも本当にやっていそうだから困る。小悪党A、Bとして悪巧みをやらかしていそうな気がする。近所の中学生のガーフィールも付け加えて、男三人で馬鹿をやっていそうな気もした。

 ベッドの上で二人して胡坐をかいて、「一緒に稜線に沈む夕陽を見た仲だろ」「それ三人して山で遭難してたときに呆然としながら見た夕陽のことですか? あれを良い思い出と言えるのナツキさんくらいですよ」「だってその後すぐラインハルトが助けに来てくれたじゃん」と去年の夏休みの遭難事故の話をしていると、会話の中の名前に反応したのだろうか。ベッド横でずっと左手を眺めて考え込んでいたラインハルトが左手をぎゅっと握ると立ち上がり、スバルの方へ体を向けた。そして、スバルの両手を握り。

 

「スバル。スバル・アストレアになってほしい」

 

 つい数分前にも聞いた固有名詞を口にした。

 その言い方だと、養子というよりもプロポーズみたいだなあ、という感想を抱きながらオットーはじりじりと後ろに下がり、二人の会話に巻き込まれないように逃げる。

 

「前も言ったけどならないからな!?」

「スバルといると、幸せな気持ちになれるんだ。僕はスバルが好きだよ。僕は君と、家族になりたい」

「その言い方されると心がちょっとぐらつくチョロい自分が憎い」

 

 向けられる好意に弱いことをスバルは自覚している。以前アストレア家で養子縁組だなんだという話が出ていたときも、実は結構ぐらぐら来ていたのだ。

 両手を握られているため逃げることもできず、スバルは自分を見下ろす青い眼差しに射抜かれていた。

 

「……スバルは、僕のことが嫌い?」

「やっ、やめろ! その捨てられた子犬みたいな目はやめろ! お前みたいなイケメンにやられると俺弱いんだよ! 好きに決まってんだろ!」

「だったら、僕を友人としてだけでなく、家族として好きになってもらいたいな」

「顔が良いのはずるい! なんでも頷きそうになる! 俺がラインハルトの顔を好きだって知っての狼藉か!?」

「スバルが褒めてくれると、この顔で生まれて良かったと心から思うよ。お父様やお母様、お祖母様やお祖父様も、スバルが我が家の一員になることを望んでいてくださる」

「ヴィルヘルムさんの孫になるのはちょっと心揺れるけど……いや待って揺らされちゃ駄目だろ俺。落ち着け、ベア子を数えるんだ俺。拗ねてるベア子が一人、怒ってるベア子が二人、悲鳴をあげてるベア子が三人、夜中にマヨネーズをつまみ食いしてるベア子が四人、夜こっそり俺の部屋に来て睫毛触ってるベア子が五人、俺を起こす前に実は額ちゅーしてくれてるベア子が六人……」

「朝から晩までずっとスバルといられるなんて、彼女には嫉妬してしまうな」

「やばい余計刺激しちゃった」

「スバルは僕と家族になりたくない?」

「なりたっ……ならない! なりません! 俺の名前はナツキ・スバルだ!」

 

 顔を真っ赤にして言っていても何の説得力もない。そんなやり取りを眺めて「ナツキさんって呼び方が旧名になる日も近そうだなあ」と思いながらオットーはベッドからのそのそと下りて、資料をまとめる作業に戻ることにした。

 全方位人タラシな彼が、意識せずに人に向けた言葉によって誰かの好感度を爆上げして、その結果思わぬ好意を向けられて焦る状況など既に見慣れたものだ。今日はたまたま、相手が既に好感度MAX状態のラインハルトだっただけだ。現にユリウスなど、スバルとラインハルトの会話など一切気にする様子もなく、相変わらず読書に没頭している。

 結局、隣家から青い髪の少女が突撃してくるまで、スバルとラインハルトの押し問答(若干スバルが負け気味)は続いた。

 

 

 

 ちなみにだが。

 スバルのアカウントの通知機能はその後数日間に渡り死に続けた。呟きがバズったことによりフォロワー数は跳ね上がり、ついでに何故かオットーのフォロワーも増えた。

 動画を載せたスバルのツイートは、ソシャゲ界隈で順調なスタートダッシュを切って拡散され、SNS上のいろんな界隈を廻った。その結果ネット上にいる男子高校生の絡みを好む紳士淑女達のもとへ至り、彼ら彼女らに大打撃を与えたことは言うまでもない。

 正統派美少年二人が、若干見た目に不良っぽさはあるものの邪気のない黒髪の少年に頬へキスをされて、赤髪の少年が嬉しそうに幸せそうに微笑み、紫髪の少年が苦笑しながら満更でもない顔で受け入れている姿を見て、何も思わずにいられようか、いやそんなわけがない。最後にキスをされたと思われる動画を撮っていた少年が、わりと全力で嫌がっているのもオチとして良かったのだろう。邪推が捗って仕方がない。

 強運大型わんこ系赤髪×無邪気子犬系黒髪だ。いや優等生紫髪×不良黒髪だ。いやいや巻き込まれ友人枠カメラ少年×愛されトラブルメーカー黒髪だ。一度で三度おいしい。いや待てサンドも美味しいはずだ、赤髪&紫髪×黒髪とか絶対美味しい。その場合撮影者の彼はどうするんだ。彼は全ルートクリアしたらルート解放される情報提供してくれる友人枠だよ絶対。

 そんな会話がネット上で繰り広げられていることもつゆ知らず、スバルは今日も今日とて周囲を愛し周囲に愛されながら平和に暮らしているのであった。

 

 

 

ガチャの加護

 

 

 

ソシャゲの引きが鬼がかってるラインハルトさんとその恩恵を受けまくっているスバルくん。

 

ライスバだけどユリウスとオットーからの好感度もたぶんMAX状態。

ライハルさんに「僕は君の指先になろう」って言わせたかった。